2012年10月8日月曜日

起きたら胸から女子高生が生えていた。

1Z級2012/10/08(月) 12:04:57.09 ID:45U1MmZF0

 左胸の少し下がとても痒い。
 自覚したのは三日前、
 虫に噛まれたわけでもない。
 僕はそれを放置していた。
 そして今朝、目が覚めると、
 そこからキノコか何かのように
 小さな女の子が生えていた。
 少女は全裸であったが、
 鎖骨の少し下あたりからしか生えていなかった。
 そのため大事な部分は隠れていた。




2以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:05:16.83 ID:/xiIr2WR0

などと供述しており




3以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:05:23.25 ID:OIMnqPOi0

なんか始まってた




4Z級2012/10/08(月) 12:05:44.94 ID:45U1MmZF0

「生えてきてごめんなさい」
 少女は申し訳なさそう頭を下げた。
 僕は驚いて、少女を観察する。
 黒髪の綺麗な、清純そうな少女だ。
 観念して言ってしまえば、
 僕の初恋の女の子にとても似ていた。
 初恋は小学一年生の時で、
 その子の顔なんてろくに憶えていないのだけど。
 生えてきた女の子は十代ぐらいに見えた。





8Z級2012/10/08(月) 12:06:27.34 ID:45U1MmZF0

 こういう場合は病院にいくべきだろうか
 それとも救急車を呼ぶべきだろうか
 僕は真剣に悩み、とりあえずシャツを脱いだ。
 少女がシャツの中、もぞもぞと息苦しそうにしていたからだ。
「あの」
「……喋ってる」
「あの、聞こえますか?」
「聞こえてますよ」
 少女は声が届いていると知り、微笑んだ。




11以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:07:05.22 ID:qPf2q94Z0

こえーよ




12Z級2012/10/08(月) 12:07:11.37 ID:45U1MmZF0

「突然、占拠してしまってごめんなさい」
「胸上占拠だ。胸上不法占拠だ」
 デモをおこしてやろうかと考える。
 自分の体の上の土地は、一体誰のものなのだろう?
 ふとくだらないことを考える。
 その土地を買った覚えはないが、
 僕のものであるべきだろう。
「君は何なんだ?」
 気になっていたことを尋ねる。




15Z級2012/10/08(月) 12:08:14.32 ID:45U1MmZF0

「何なんでしょう?」
「あのね」
「私を責められても困りますよ」
 突然、強気で少女は言い出した。
 僕は気が弱い。
 小さな少女が少し語気を強めただけで驚く。
「なんで」
「気付いたらここに生えてたんですから」
「僕は生えられてたんだけど」
「それにですね、考えてみてください」
「考えよう」
「あなたは左胸が少し重くなっただけです」
「……それだけかな?」
 いまいち納得がいかない。
 彼女が生えてきたことによって、
 より多くの損害は生ずる気がする。




18以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:08:46.48 ID:mOkaFIgn0

スレタイで吹いた




19以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:08:59.37 ID:OIMnqPOi0

こういうことか

i.imgur.com/hLLRM.jpg





20Z級2012/10/08(月) 12:09:02.06 ID:45U1MmZF0

「私は脚がないせいで、動くこともできません」
「……そうだね」
「私のほうが損害を被っています」
「……そうかな」
「そうです」
 押し切られてしまう。




21Z級2012/10/08(月) 12:09:59.66 ID:45U1MmZF0

 僕が病院に電話をしようと携帯をとると
 突然少女は慌てだした。
「どこに電話するつもりですかっ?」
「どこって……病院」
 この状況で時報を聞いたり
 出前をとる人間がいるならば教えて欲しい。
「やめてくださいよ」
「何で?」
「私、切除されちゃうじゃないですか」
「ああ、確かに」
「というわけで、一度落ち着いて」
「落ちついた」
「携帯をベッドに投げましょう」
 何故か言いなりになり、
 僕は携帯をベッドに投げた。




24以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:11:29.74 ID:oM+LYepcO

なんだホラーか




25Z級2012/10/08(月) 12:11:32.26 ID:45U1MmZF0

「まったく……!」
「僕は君の言うとおり、携帯を捨てた」
「まずはそこに座ってください。汚い部屋ですが」
「僕の部屋だ」
 失礼な少女だ。
 体のサイズに見合わず、態度はでかい。
「僕に医療の知識はない」
「そうですか」
「だから、君が悪性の腫瘍でないという確信がない」
「人をがん細胞みたいに言わないでください」
 失礼な、と少女は頬を膨らませた。
「君が悪性の腫瘍でないと言うのならば、だ」
「はい」
「僕に君が何なのか、説明して欲しい」
「説明ですか」
「うん、それに僕が納得すれば」
「すれば?」
「119は諦めよう」




27Z級2012/10/08(月) 12:13:00.14 ID:45U1MmZF0

 少女は人の胸の上で
 偉そうに腕を組んでしばらく考えていた。
 僕は秋の朝特有の寒さに少し寒さを感じた。
 何しろ、少女を気遣ってシャツを脱いだのだ。
 風邪をひきそうだと本気で心配になってきた頃、
 少女はようやっと口を開いた。
「私はですね」
「うん」
「妖精さんです」
「うん?」
「あなたの心臓から生えてきました」
「うえ、これって心臓まで根付いてるのか」
 引き抜けば心臓に風穴が開くのかもしれない。
 そんなことを想像して、胸に寒気が走った。
「つまり、あなたの心の化身だというわけです」
「心臓と心ねぇ」
 一文字違いではあるが




29Z級2012/10/08(月) 12:13:42.33 ID:45U1MmZF0

「あなたには懺悔することがあるはず」
「懺悔って……うーん、そんなに大仰なことは」
「私はあなたの心です。自分自身に嘘はつけませんよ!」
「うーん」
 見に覚えがない。
 もちろん、二十年間生きてきた中で
 悪いことの一つや二つはしてきた。
 小さな悪事なら数えられないほどだろう。
 しかし懺悔しろと心に言われるほど、
 大きなことはしていないはずなのだ。




32以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:14:10.13 ID:G8+WZ06/0

星新一にありそう




34Z級2012/10/08(月) 12:14:29.61 ID:45U1MmZF0

 僕が見に覚えがなくて悩んでいると
 少女は少し残念そうに小さく溜息をついた。
 僕が見ていると気付くと、
 すぐに生意気な表情に戻って腕を組む。
「本当に覚えはないなぁ」
「そうですか」
「心さん」
 僕は彼女を心と呼ぶことにした。
「教えてほしいな」
 何しろ、彼は僕の心らしい。
 僕の記憶にないことも知っているはずだ。
 僕が尋ねると、心はふんっと鼻息をはいた。
「私が知るわけないでしょ」
「えぇ……僕自身だってさっき」
「嘘だから」
「嘘かよ」
 心臓やら心やら云々は全て彼女の嘘だった。




36以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:15:20.14 ID:G8+WZ06/0

嘘かよww




38 忍法帖【Lv=15,xxxPT】(1+0:15) 2012/10/08(月) 12:15:58.12 ID:2eIMd1iK0

面白いな




35以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:14:36.73 ID:faqGROo20

なんだこれといいながら
内心期待してる




39Z級2012/10/08(月) 12:16:08.06 ID:45U1MmZF0

 彼女の嘘に免じて、僕は電話することにする。
 携帯をとると、途端に心は慌てだした。
「早まらないで! まだ和解はできるはず」
「痛い痛い、地味に痛いよ」
 ぽこぽこと、彼女は胸を叩くのだ。
 両腕を精一杯使って、太鼓か何かのように。
「本当のことを言う気がないなら」
「言います、言いますから!」
 切除だけは勘弁を、と心は両手を合わせた。
 拝まれても、大して迫力がない。




42Z級2012/10/08(月) 12:17:59.95 ID:45U1MmZF0

 さて、どうしたものか。
 僕が悩んでいると、携帯が鳴った。
 着信だ。
 メールの内容を確認する。
「あああ!!」
「うひぃ、大きな声出さないでください!」
「バイトだった。遅れる!」
 僕は慌ててスラックスを脱いだ。
「うへぁわわわ、ちょっと女の子の前ですよ!」
 心は慌てて両目を塞ぎ、苦情を告げるが、
 どうしろと言うのだろう。
 僕は心の苦情を無視して着替え、
 彼女が隠せるようにワイシャツを着込んだ。
「狭い、暗い、息苦しいです」
「鋏で切られなかっただけでも感謝してほしい」
「喜んで我慢します」
 僕はやむを得ず、少女を胸から生やしたまま、
 外出をすることとなった。




45以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:19:03.57 ID:eh41Xr190

おもしろいな




47以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:19:11.69 ID:G8+WZ06/0

少女のサイズが知りたい




52Z級2012/10/08(月) 12:19:54.49 ID:45U1MmZF0

>>47
りかちゃん人形を思い出してください。

 




55以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:20:22.31 ID:JN+caROP0

>>52
小さいなww




48以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:19:15.33 ID:JN+caROP0

少女を胸にだいたまま出勤とは天国か




49以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:19:42.99 ID:f3h4Idgb0

「喜んで我慢します」www素直だなwww




50以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:19:44.78 ID:WQCKtbt50

これは期待




56Z級2012/10/08(月) 12:20:24.02 ID:45U1MmZF0

 僕のバイトはレストランの店員なのだが
 注文をとる最中は黙っている心は、
 僕が厨房に戻ると同時に愚痴を吐いた。
 暑いだの、苦しいだの、
 胸上不法占拠者にしては図々しい。
 僕はその小さな声がバイト先の先輩に聞こえる度、
 咳払いをして誤魔化した。
 何とか午前中のバイトを終えると、
 土下座をする勢いで店長に謝罪し、
 午前であがることにした。
 原動付き自転車に跨って発進し、
 僕はそこでようやくクレームを告げる。




57以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:20:31.92 ID:Hwe4nZxP0

少女の首疲れそうだな




59Z級2012/10/08(月) 12:21:47.97 ID:45U1MmZF0

「心さん!」
「うわぁ、なんですか突然」
 どうやら呑気なことに、
 心は眠っていたらしい。
 可愛らしいいびきをかく彼女を起こすのは躊躇われたが
 心を鬼にする。
「バイト中は喋らないでってあれだけ言ったのに」
「あなたには分からないんです」
「何が」
「シャツの中という場所がいかに劣悪な環境なのか」
 だったらそんな場所に生えてくるな、
 と言いそうになる。
 そういえば彼女は生える場所を選べなかったのだ。
 しかしまぁ、僕も生まれる場所は選べなかったわけで
 おあいこだろう。




61Z級2012/10/08(月) 12:23:21.89 ID:45U1MmZF0

 しかし秋だったから良かったものの、
 これが夏場であったら、
 彼女は失神ものだろう。
 僕はそれから少しだけ汗のケアを熱心に
 行うようになる。
 とりあえず、シーブリーズは購入してから帰ろう。
 と、心に決めた。




62Z級2012/10/08(月) 12:24:14.66 ID:45U1MmZF0

「ずっと全裸で過ごせってことなのか」
「わー、露出狂ですね」
「君がそうさせようとしてるんだ」
 もしかしたら心はサディストなのかもしれない。
 僕が右往左往する度、
 シャツのしたで体を震わせて笑っていた。
 今だって怒る僕を見て笑っている。
「あのね」
「分かりました。黙ります」
「ん?」
「黙りますから、切除だけは勘弁してくださいね」
 歯を見せて彼女は笑う。
「ほら、今日も上手く行きましたし」
「上手くいったのか?」
「明日も明後日も、私が生えてても大丈夫ですよ」
 自信ありげに彼女は自分の胸を叩いた。
「……」
 不安しかない。




63Z級2012/10/08(月) 12:26:27.22 ID:45U1MmZF0


 心の自信は、その日の夜に崩れ去る。
 問題は入浴タイムにやってきた。
 僕が服を脱ぎ、風呂場へ向かうと彼女は慌てた。
「ま、まさかまさか」
「残念ながら、入浴タイムだね」
「うわわわ、待ってください!女の子の前ですよ」
 朝と同じようなことを言って彼女は目を覆う。
「そのまま耐えててくれ」
「待って待って、うへわぁあああ」
 僕は小さな少女を胸に引っさげた、
 非常に情けない姿で体を洗った。




68Z級2012/10/08(月) 12:27:40.96 ID:45U1MmZF0

 髪を洗い、腕を洗い、
 胸元を洗おうとした瞬間、
 ふと疑問に思う。
「あのさ」
「なんですか、終わりましたか?」
「終わってないけど、終わってないけど」
「なんですか」
「君は洗わなくていいの?」
「あ」
 心は驚いて両手をどけた。
 悲鳴をあげるかと思ったが、違った。
 彼女は僕の胸の上に、
 僕の顔を見る方向で生えていて、
 体を捻らない限り、僕の鎖骨から上しか見えない。




70Z級2012/10/08(月) 12:28:32.61 ID:45U1MmZF0


「洗ってください。カビでも生えたら困ります」
「僕も嫌だなぁ、胸にカビが生えるのは」
 胸から下がないので興奮することもなく
 僕は小さな少女の体をごしごしと洗った。
 ボディソープの泡で髪の毛を洗おうとすると
 心は大激怒した。




76Z級2012/10/08(月) 12:30:09.96 ID:45U1MmZF0

 退屈だ、と時には心は怒り出した。
 僕は基本的に、バイトのない間は家にいる。
 することもなくゴロゴロしながら、
 時より昼ドラを見て欝になったり、
 ゲームをして酔いに悩まされたりする。
 心にとってそのどちらも面白くはないらしい。
 僕がそんなことをしていると苦情を告げる。
「だったら君は何がしたいんだ?」
「そうですね」
 彼女は顎に手を当てて
 探偵のようにしばらく考えた。
「縄跳び」
「縄跳び!?」
 予想以上に運動的で、
 子供的なことを心が言うので驚いた。
「鬼ごっこも、水泳も、跳び箱も、部活も」
「ちょっと待て、君は僕を学校関係者だと」
「思ってませんよ、願望です、願望」
「無茶ばかり言うな」
「だったらデートでいいです。デート」
「デート?」
「はい、遊園地なら大丈夫ですよね?」
 確かに、少し金を出せば遊園地には行ける。
 しかし、その場合、
 心は外からは見えないのだから、
 僕は男一人で遊園地に来た寂しい人になる。
 僕は必死に心の要望を断った。




78Z級2012/10/08(月) 12:32:23.84 ID:45U1MmZF0

 ふと、怖いことを思いついた。
「あのさ」
「はい」
「まさかとは思うけど」
「まさかとは思うけど?」
「君は僕に寄生した何かで」
 その時点で突拍子もない話だ。
 心は眉を寄せた。
「放っておくと君は成長して」
「成長して?」
「栄養を吸い取られた僕は縮み」
「……展開が読めました」
「僕と君の立場は入れ替わってしまうのでは」
「あのですね」
「はい」
「小説の読みすぎです」
「そうですか」 
 まあ、冗談のつもりで言ったのだが。




80Z級2012/10/08(月) 12:34:53.62 ID:45U1MmZF0


 僕は心を抱いて脇役の毎日を送る。

 僕と心は何だかんだ些細な喧嘩をしながらも、
 上手く共同生活を続けることができた。
 気付けば彼女が生えてきてから一月が経っていた。

 僕はカップラーメン前に三分間耐え、
 やっとありつけたそれに舌鼓を打ち、
 ついでに心に餌やりをしておこうと、
 シャツを捲った。
 いつもなら食べ物の匂いにつられて
 元気に口を開けているはずの心が、
 その日は何故か、
 ぐったりとしていた。




81以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:35:31.53 ID:erGluTr/0

まさかの急展開




82以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:35:43.38 ID:qPf2q94Z0

そりゃ大変だ




85以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:36:32.31 ID:FkJn5goV0

あらま




87Z級2012/10/08(月) 12:36:45.85 ID:45U1MmZF0

 体から生える小人の病への対処法など、
 検索をかけてもあるはずがなく、
 僕は彼女が目覚めるまで祈ることしかできない。

 貧乏性が故か、そんな状況でもラーメンを食べ尽くし、
 心の目覚めを待った。
 真っ白だった心の肌が、
 心なしか少し、茶色にくすんでいた。

 その色を見て僕は直感する。
 これは、あれだ。
 植物が枯れる前兆に似ている。
 小学生の頃、
 僕は一人一鉢の植物をすぐに枯らしてしまう
 典型的な世話下手な生徒だった。
 だからその色には見覚えがあった。




92Z級2012/10/08(月) 12:38:03.70 ID:45U1MmZF0

 心は夕方に目を覚ました。
「ふわぁ……あれ、どうしました?」
 僕の顔はよっぽど酷いものだったのだろう。
 心は驚いたようで、目を丸くした。
 僕は思わず彼女を抱き締めた。
 胸のうえに居たから抱き締め辛かったのだが。
「あ、あの」
「気分、悪いんだよね?」
「……」
「体調、いつから悪いの?」
「……一週間ほど前から、です」
 心は気まずそうに視線を知らしながら
 白状した。
「僕のせいか」
「ど、どうしてそうなるんですか!」
「僕が君の世話を間違えたんだ」
「違います。それに、なんでそんなに悲しむんですか」
 心は顔をほんの少し赤くして、眉を顰めた。
「最初の頃は鋏で切ろうとなんてしてたくせに」
「情が移ったんだ。君のせいだ」
「……」
「……」
「とにかく、あなたのせいじゃないですから」
 心は拗ねたようにそう告げると、
 ふん、と顔を背けた。




98Z級2012/10/08(月) 12:39:48.51 ID:45U1MmZF0

 僕は多分、
 そのとき心に恋をしていることに気づいた。




99Z級2012/10/08(月) 12:40:20.57 ID:45U1MmZF0

 いくら食事を与えても、
 いくら水を与えても、
 いくら繊細に扱っても、
 心の衰弱は止まらなかった。
 肌の色は徐々に悪くなり、口数も減った。
「心さん、無事?」
「……無事ですよ」
 黙れといってもきかなかった彼女が、
 いつからか、僕から話しかけない限り
 言葉を発しないようになった。
「生きてる?」
「……生きてますってば」
「僕はどうすればいい?」
「どうするとは?」
「僕は君に何が出来る?」
「何も望んでませんよ」
 心はおかしそうに笑った。
 必死な僕を見て笑ったのかもしれない。
 その笑顔が前より弱々しくて
 僕は切ない気持ちにさせられた。




101Z級2012/10/08(月) 12:41:46.86 ID:45U1MmZF0

 心は僕の胸を枕代わりに
 眠っていることが多くなった。
 うたた寝のような浅い眠りのようで、
 僕が話しかければ応じる。
 ただ、時々、
 浮かされたような、
 わけの分からないことを喋るようになった。
 うわごとのようで、良くない兆候だ。
「私はね、本当は嫌だったんですよ」
「……」
「引越しだって嘘ついてたんです」
「……心さん」
「嘘ですよ嘘、全部嘘なんです」
「心さん」
「嘘吐いてる私が、ばれてほしいって思ってたんです」
「……心」
「笑えますよね」
 よく分からないことを口走った後、
 彼女はこてりと眠ってしまうのだ。




103Z級2012/10/08(月) 12:43:19.35 ID:45U1MmZF0

 僕はバイトを休み、家にいることが多くなった。
 心が元気になるまで、
 珍しく静かな彼女を見ていたいと思ったのだ。
 少しでも長く……なんてことを考えたわけじゃない。
 心は僕の胸に両手を広げ、精一杯しがみついている。
 そして寝ている。
 片耳を胸に押し当てるのが彼女の癖だった。
「ああ、分かりました」
 ある日、珍しく心から口を開いた。
「分かったって?」
「私があなたの胸に生えてきた理由」
「へえ、聞かせてよ」
「聞きたいですか?」
「聞きたい」
「きっと、こうするためです」
「こうするって?」
 心はより強く、僕の胸に頭を押し当てる。
「こうやって、あなたの鼓動を聞くためですよ」
「……」
「あなたの生を感じるために、私はここに生えたんです」
 きっとそうに違いない、と
 彼女は寝言のように呟いた。




105以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:44:03.53 ID:G8+WZ06/0

泣いた




106Z級2012/10/08(月) 12:44:29.15 ID:45U1MmZF0

 もっと早く、こうするべきだったのだろう。
 僕は心が眠っている間に、
 一人暮らしをはじめてから一度も開けていない
 ダンボールを開けて探る。
 少し埃をかぶったアルバムが出てきた。
 渋る僕に、母親が無理に持たせたものだ。
 小学校の卒業文集兼アルバムだった。
 幼い頃の自分の写真を見つけ、恥ずかしい気分になる。
 同じクラスに、彼女の顔を見つけた。
 初恋の相手だ。
 似ている、と思ったのは気のせいではなく、
 心とそっくりだった。
 六年生の彼女が成長すれば、
 きっと心のようになるだろう。
「どうして……」
 他に写真はないか、
 アルバムを捲っていると、
 ページの間から何かが落ちた。




107Z級2012/10/08(月) 12:45:37.44 ID:45U1MmZF0


 寄せ書きだった。
 卒業の日、それぞれが記念に書いたものだ。
 親しかった悪友達の汚い文に混ざって
 控えめな、丸みのある文字を見つける。

 また会おうね。

 短い一文だけだったが、
 その文章を見つけた瞬間、
 断片的にだが、古い記憶を拾うことが出来た。

 確か、彼女は卒業と同時に引っ越したのだ。
 それで同じ地域の中学校にはいけなかった。
 失恋に号泣した記憶がある。
 幸い、卒業文集の後記に連絡先が記されていた。
 僕はなけなしの勇気をかき集めて、
 そこに電話をかけることにした。




109以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:46:59.53 ID:FkJn5goV0

面白い




113以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:47:58.87 ID:5+CZiAhb0

死んでたとかベタベタな展開は止めてね




114Z級2012/10/08(月) 12:48:21.77 ID:45U1MmZF0

 全てを終えた僕は、
 心が起きるのを待つ。
 彼女の肌はすっかりくすみ、灰色だ。
 体も心なしか細くなっている。
 元々細かったのに、細くなって、
 生えてきた当初はエリンギのようだと思ったのに、
 今ではシメジのようだと思ってしまう。
 彼女がゆったりとした仕草で目を開ける。
 僕は心と向き合った。
「心」
「……ぁあ、おはよう」
「起きたばかりで悪いけど、話がある」
「なんですか?」
「どうして嘘を吐いてるんだ?」
「嘘?」
「どうして、何も知らないようなふりを?」
「……何の話…か」
 心は目を伏せて頭に手をやる。
 同じだ。仕草も、表情も、彼女と。
 どうして今まで気付かなかったのか、
 不思議に思った。




117Z級2012/10/08(月) 12:49:49.18 ID:45U1MmZF0

「僕が悪い」
「……」
「ごめん、だって、元気そうだったから」
「……」
「まさか」
 心はふと微笑んだ。
「卒業後に君が死ぬだなんて、思わなかった」
「あなたは何も悪くないです」
 か細い声で、笑ったまま、心は言った。
「でも、少し傷つきました」
「ごめん」
「私のこと、憶えてなかったんですから」
「懺悔とか言われても、分からないよ、普通」
 後悔していることはないか?と聞かれていれば、
 思い出したかもしれない。
「病気、だったんです」
「親御さんから、聞いた。末期だったって」
「私の希望で、転校ってことにしてもらいました」
「どうして?」
「どうしてって、みんなの悲しむ顔なんて」
「どうして僕の前に、こんな形で現れたの?」
「察してくださいよ。相変わらず、鈍いですね」
 少し怒ったふりをして、心は胸を叩いた。
 か細い腕が逆に折れそうで、心配になる。




118以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:49:49.74 ID:erGluTr/0

いいな




119Z級2012/10/08(月) 12:50:29.05 ID:45U1MmZF0


「あなたの近くに居たかったんです」
 どんな形であろうとも。と、
 心は付け足してから照れくさそうに笑った。
 なんだか僕も照れくさくなって、
 こんな状況で、
 こんな状態で、
 大切なことを笑って言う彼女が愛しくて
 泣いてしまった。




121以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:50:50.10 ID:FkJn5goV0

泣いた




122以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:50:53.12 ID:WQCKtbt50

俺も泣いた




124 忍法帖【Lv=40,xxxPT】(1+0:15) 2012/10/08(月) 12:51:29.85 ID:ZQFW++tr0

関係ないのに両親が泣いてた




125以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:52:02.95 ID:gcqh4FXN0

>>124
親孝行してやれ




126以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:52:13.15 ID:kPbLy6nK0

>>124
おまえ....
働けよ




128以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:52:42.47 ID:FkJn5goV0

>>124
親泣かすなよwww




127Z級2012/10/08(月) 12:52:14.76 ID:45U1MmZF0

「まあ、半分嘘なんですけど」
「嘘かよ」
 このタイミングでぶっちゃけるとは、
 やはり彼女は、
 僕の初恋の相手でもあり、
 あの生意気な心でもあった。
 できれば雰囲気ぶっこわしな嘘は、
 墓場まで持っていってほしかった。
「私、若くして死んだんですよね」
「知ってる」
「だからですね、神様的なものにですね」
「神様的?」
「同情されたんです」




131以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:52:56.59 ID:G8+WZ06/0

嘘かよwww




132以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:54:13.62 ID:FkJn5goV0

心たん・・・




133Z級2012/10/08(月) 12:54:16.67 ID:45U1MmZF0

「好きな男に気づかれもせず」
「うん」
「好きな男はにぶちんで」
「……うん」
「私のけなげな思いに気づきもしない」
「……申し訳ない」
 心は僕が謝罪するのを見て、笑った。
「復讐してやろう」
「うん?」
 物騒なささやきだ。
 彼女が死に際に聞いたその声は、
 多分神様のものではなくて
 悪魔的なもののささやきに違いない。
 




137Z級2012/10/08(月) 12:57:00.15 ID:45U1MmZF0

「びっくりしました」
「何に?」
「あなたは見かけによらず、結構読書家でしたから」
「失礼な」
 暗に馬鹿っぽいと言われているような気がした。
「私がこのまま大きくなれば」
「まさか……」
「あなたは栄養を吸い取られて、」
「君は栄養を吸い取って」
「関係は逆転してしまうわけです!!」
「うわぁ」
 怖いと思ったけど、
 女子高生の胸に生える生活というのも、
 悪くはないかもしれない、なんて、
 僕は思った。
 反省した。




139以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 12:58:06.08 ID:JN+caROP0

いや俺も思う




144Z級2012/10/08(月) 13:02:32.83 ID:45U1MmZF0

「私にそんな気はないので安心してください」
「安心した」
「……彼岸花って知ってますか?」
「赤いやつだよね」
「アバウトですね」
 赤くて、ばさばさしている花のはずだ。
「あれ、根っこが本体なんですよ」
「そうなんだー」
 豆知識がひとつ増える。
「だからですね、仮に私が枯れたとしても」
「うん」
「きっと、多分、根っこが残ってます」
 心臓に直結した部分は残っているのか、
 僕はしばらくレントゲンはとれないな、と
 覚悟する。
「あなたが私を忘れたら」
「うん」
「また生えてきて、今度こそ乗っ取ってやりますから」
 本気で実行しそうで怖い。
「忘れないでいてくださいね」
「うん、約束する」
「約束してください」
 心は満足げに笑い、
 ふてぶてしく腕を組んだ。




145以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 13:03:25.98 ID:FkJn5goV0

泣いた




147以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 13:03:50.74 ID:JN+caROP0

枯れるのか




148Z級2012/10/08(月) 13:04:07.45 ID:45U1MmZF0



 僕の胸に生えた不思議な小人は、
 その日一杯、くだらない話や思い出話をして、
 一生懸命笑って、
 翌日になると、綺麗サッパリ消えていた。
 凹凸のなくなった胸を撫でながら、
 僕は初めて、喪失感を味わった。
 胸の女子高生は消えてしまったけど、
 僕はこれからも、
 心を抱いて生きていく。




151以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 13:05:27.24 ID:FkJn5goV0

ええ話や




152Z級2012/10/08(月) 13:05:47.99 ID:45U1MmZF0

以上です。
つたない文章でしたが、お付き合いしてくださった方、

どもどもありがとです。
レスうれしかったです。

ではまた、
ご縁があればよろしくお願いしますね。




153以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 13:06:01.05 ID:f3h4Idgb0





160以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 13:06:48.97 ID:erGluTr/0

乙!
よがった




165以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 13:08:07.98 ID:TUn7RKGfO

久々に本気で面白いと思ったわ




176以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 13:37:27.21 ID:HLteNSlr0

心を感じる話で深かった
いいものを読んだ




173 忍法帖【Lv=6,xxxP】(1+0:15) 2012/10/08(月) 13:20:36.66 ID:mhGQrzls0

乳首いじってたら生えてくるかな?




171以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします2012/10/08(月) 13:16:53.54 ID:+/Z8IeKs0

ちょっと胸に肥料あげてくる




引用元:起きたら胸から女子高生が生えていた。

2 件のコメント:

  1. 美鳥の日々やん

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  2. うん、まぁ美鳥の日々だけど……
    こっちの展開が一般的、かなぁって思う。

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