2012年5月18日金曜日

彼女からもらった意味深な手紙

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:42:04.16 ID:mmUZbAdx0

その女性を本当に「彼女」と言い切ってしまっていいものなのか
今となってはよくわかりません
僕と彼女との関係性は、いわゆる「カップル」という呼称から
イメージされるそれと比べれば全く薄いもので
あまり連絡は取り合いませんでしたし
それらしいことといえば、たった1回デートをしただけにすぎないのです




2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:42:25.81 ID:mmUZbAdx0

ただ、僕と彼女が「交際」を始めたなり染めは
ある日彼女のほうが
それまで2度ほど会話をした程度にすぎなかったのですが
その彼女のほうから
僕に対して「告白」をしてきたことがきっかけとしてあるので
やはりここは彼女のことを、僕の「彼女」と
僕の「彼女」であったのだと
そういう表記の仕方をしても許されないことではないのかなと思います



3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:42:36.18 ID:mmUZbAdx0

「告白」を受けたとき、僕は少しぼんやりして
なにがなにやらわかりませんでした
というのも、僕はまったく女性に持てるような人間ではなく
そもそも友達自体ほとんどいなくて
それまでの人生の中で女性と付き合ったことなど一度としてなかったし
女性から「告白」を受けるという出来事など
フィクションか、それに類する
いずれにせよ自分とは縁のない異次元の世界で起こることという認識しかなかったためです





4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:42:47.96 ID:mmUZbAdx0

「少し私と」
そのとき彼女は、今になって思い出すと、少し青ざめた顔をして僕に言ってきました
場所は午後の川原で、僕は時間がある日はそこでぼんやり読書をして
すごす習慣がありました
それ以前にも彼女とは、その場所で2度ほど会話していました
一度目は、偶然通りかかった彼女が、僕に対して何を読んでいるのか聞いてきました
二度目は、やはり同じ場所で読書をしていた僕に対し、彼女は少し本格的に、戦前の日本文学に
関する議論をふっかけてきました
彼女の「告白」を受ける、2週間ほど前の出来事です



5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:43:01.18 ID:mmUZbAdx0

「少し私と、お付き合いしてください」
彼女はゆっくりそういいました
心なしか、彼女は少しやつれているようにも感じられました
ただ、そのときの僕には、目の前のこの女性が一体何を言っているのか
すぐには理解しきれぬ所があり、そのようなことに気を裂いている余裕
はありませんでした



7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:43:13.01 ID:mmUZbAdx0

彼女に対し、僕は少し警戒していました
川原で文庫本を開いている男など、世間には奇異に見られるであろうし
その事実は自分でも認識できています
なので、最初に話しかけられたとき、僕は僕のほうで
この女性はかなり変わっているか、あるいはよからぬたくらみでも
抱いているのではないかと考えていたのです
そんな男に自分から話しかけてくる女性など、通常ではあまり考えられません



8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:43:26.17 ID:mmUZbAdx0

しかしながら、結果として僕はこの日
彼女の「告白」を受けました
なぜそうしたのか、今となってはあまりはっきりと説明することはできません
急に付き合えなどと言われ、うろたえるあまりとっさに拒否することができなかったのかもしれませんし
あるいは、単純に生まれて初めて女性からの告白を受け、うれしかったのかもしれません
彼女は、かわいいかかわいくないかでいうと、かわいいほうの部類に入っていました
少なくとも、僕の目にはそう映っていました



9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:43:42.21 ID:mmUZbAdx0

ただ、その日の夜には僕はもう後悔していました
相手が悪いわけではありません
僕自身が問題なのです
僕は、引きこもり気味な性格で、同性との間でも、これまで良好な
人間関係を築いてくることはできませんでした。何かの折に触れ
話しかけてくる人間や、そのなかである程度の関係性を発展させよう
とする人物もおりましたが、時間がたつにつれ僕という人間の
つまらなさを悟り、次第に僕の前から姿を消していくのです



10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:44:05.79 ID:mmUZbAdx0

彼女との仲も、どうせそうなる
そういった予想は、かなり確固とした形で僕の中にありました
そうなることを恐れる気持ちもありましたが
それ以上に、それを察していながら彼女の「告白」に応じた
僕の行為が、ひどく無責任なものに感じられたのです



11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:44:27.13 ID:mmUZbAdx0

僕は彼女という人間を知りません
それまで持ち合わせていた彼女に関する情報といえば
単にどうやら読書好きであるようだといった、その程度のものしかなかったのです
彼女がなぜ僕のような人間に、急に「告白」などをしてきたのかについては
まるで理解できませんでした



12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:44:41.04 ID:mmUZbAdx0

ただ、そのようなことをした以上、彼女が彼女の中では
僕という人間はそれに値する何かを持ち合わせていると判断したのであろうと
そういうことだけは伺えます
結論から言えば、それは彼女の誤りです
僕にそのような部分はないのですから



13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:44:59.68 ID:mmUZbAdx0

どのような幻想を抱いているにせよ、彼女がそれに気がつくのは時間の問題です
彼女は僕が自分が思っていただけの価値のない人間であると悟り
これまでほかの人間がそうであったように僕の前から姿を消すのでしょう
それは、僕自身にとっても面白いことではありません
しかし、彼女にとってはどうでしょうか



15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:45:18.02 ID:mmUZbAdx0

僕に対して過大な幻想を抱いていただけ
そして自ら告白というそれなりに勇気を要する行為に及んでいるだけ
彼女が受ける精神的ダメージは、僕などよりもよほど大きいものになるでしょう
そして、近からずそれが発生するであろうことを
僕は彼女の「告白」を聞く段階からすでに予知できていたのです
その上で彼女の「告白」を受けたということは
やはり彼女の人格にたいする重大な背徳行為といわざるを得ません



16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:45:35.66 ID:mmUZbAdx0

なので僕はその夜、やってしまったなあと
大変なことをしてしまったなあと後悔したのです
この段で、僕の中にそれ以後の彼女との接触に関する期待は何もありません
ただただ、それが苦に思えて仕方がありませんでした



18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:45:51.61 ID:mmUZbAdx0

その後、僕の予想は当たりました
問題のデート
僕と彼女が行った最初で最後のデートだったのですが
その直後より彼女との連絡は途絶えてしまいました
彼女の「告白」を受けて、まだ3週間目でしたでしょうか?
それまでには週に2,3回、彼女のほうから電話をくれていたのですが
それがばったりなくなってしまったのです



20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:46:06.98 ID:mmUZbAdx0

そして、デートから一週間ほどたったある夜のこと
その彼女から、急に連絡が入りました
時刻は午後11時ごろだったでしょうか
そんな時間に急に電話が来たので
僕はびっくりしてしまいました



21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:46:22.11 ID:mmUZbAdx0

ただ、このとき電話に出る前から
彼女が僕に対して何を言ってくるのかは大体見当がついていました
問題のデート、この場で、僕は特に彼女の気持ちを害させるような
決定的な何かをした覚えはありません
ただ、特にその後半あたりからでしょうか
彼女は見るからに元気がなくなっていきました
その段になって僕はうすうす
ああ、きっとこれは彼女が僕の実態に気がついてきたのだなと察していたのです



22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:46:26.20 ID:VkQNvLHSi

あいたたた



23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:46:36.18 ID:mmUZbAdx0

その日は、彼女と二人で長時間をすごす初めての日だったのですが
これを通じて彼女にも僕の本性が理解できてきたのだなと
これではもう彼女との仲も長くはないなと
僕は震えていたのです
ただ、それがわかったところでいまさら何ができるでもありませんから
僕はもう消化試合的に残りの行程をこなし
ただ打ちひしがれる思いで帰宅したのです



24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:46:49.35 ID:mmUZbAdx0

そして、案の定、その後彼女からの連絡はなかったではありませんですか
ああ、とうとう来るべき時が来たのだな、と
僕は最初から馬鹿馬鹿しくなるほど見え透いていた結果を前に
良心の呵責に苛まれました
だから、「告白」など受けるべきではなかったのです



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:47:04.14 ID:mmUZbAdx0

そして、ようやくかかってきた彼女からの電話です
用件は百も承知です
予想通り、彼女は受話器の向こうから
『別れよう』と切り出してきました
このとき、彼女は泣いていました



26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:47:17.73 ID:mmUZbAdx0

「すみません」
僕は謝りました
ただただ謝るしかなかったのです
「なぜ謝るのですか?」
彼女は泣きながら聞き返してきました
「謝らないでください。あなたは悪くないのです。悪いのはすべて私なのです」
「でも・・・」
「いいえ、本当に、私が、私が駄目なばかりにこんなことになって、ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」



27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:47:34.18 ID:mmUZbAdx0

彼女は繰り返し謝罪の言葉を口にします
僕はだんだん気の毒になってきました
明確な形をもった原因のない中で
自分から別れ話を切り出している以上
建前上は彼女自身が悪かったと、こう言わざるを得ないのかもしれません
しかしながら真の元凶は、どう考えても僕なのです



29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:47:49.34 ID:mmUZbAdx0

「いえ、僕も悪かったです」
「そのようなことはありません」
彼女は再度否定しました
この時彼女の声には、かなり力がこもっていました
「私が、私が駄目になってしまったのだから、それが悪いのです」
「いえ、あなたは・・・」
「私が駄目になってしまったから悪いのです」



31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:47:57.76 ID:+c4F7lnoi

後の黒歴史の誕生である



33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:48:31.13 ID:mmUZbAdx0

『駄目になった』
とはどういう意味でしょうか
なにやら、あまりいい印象を受ける言葉ではありません
僕は少し胸騒ぎを感じました
思えば、少し変わったところのある
悪い言い方をすると、精神的に打たれ弱い部分が見え隠れしていた女性です



34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:48:45.03 ID:mmUZbAdx0

そんな存在にとっては「告白」や「恋愛」などといった行為、事柄は
やはり常人などよりもずっと重い意味合いを持っていたのではないでしょうか
そして結果として、それは僕という人間の詰まらなさゆえ
空虚な失敗に終わってしまったのです



35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:48:58.99 ID:mmUZbAdx0

原因はすべて僕にあります
しかしながらこの一連の出来事を経て
心理的なショックを受けた彼女は
彼女は彼女のほうで自らに責任を感じ、悔い入るのみならず
ひいては、そのような失敗を犯した自分自身という人間までもが、
何か汚れ傷つき、価値を失い、彼女なりの言い方を借りれば
『駄目』になってしまった
と、そういった錯覚に陥ってしまっているのではないでしょうか?



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:49:13.01 ID:mmUZbAdx0

彼女はその後も、泣きながら数回
『自分は駄目だ、もう駄目だ』
と繰り返しました
僕はなるべく彼女を刺激せぬよう
いや、そんなことはない
あなたは何も悪くはないし、決して駄目になどなってはいない
こちらこそいろいろと申し訳なかった
と半ば慰めるような形で謝りました
ただ、彼女はそれも頑なに受け入れないのです



38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:49:25.67 ID:mmUZbAdx0

話しながら、気のせいでしょうか?
受話器の向こうからは風が流れる音のようなものが聞こえてきました
同時に、植物の葉がこすれあうような、わさわさという音も・・・
彼女は、どこか野外にいるのでしょうか?
それも、こんな時間に?
言い知れぬ不安感が僕の中に広がっていきました
しかしながら、そのことに関して問いただすだけの勇気とタイミングを
その時の僕はつかむことができませんでした



39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:49:41.61 ID:mmUZbAdx0

やがて、電話は切れました
彼女は最後に僕に対して
「元気でいてください」
と言いました
「どうか元気でいてください」
僕は、この言い方にもどうも普通でないものを感じました



40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:49:56.81 ID:mmUZbAdx0

3週間、この電話まで含めれば1ヶ月ですが
その間続いた男女の仲を締めくくる言葉・・・
無論そういう捉え方もあるのでしょうけれども・・・
それよりも何かこれから遠く手の届かぬ場所に旅立つ人間が
今生の別れに差し向け言葉のように感じられて仕方がありませんでした



42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:50:12.54 ID:mmUZbAdx0

それから5日後
僕のもとへ角2号サイズの封筒が一枚届きました
封筒の表には、ひどくゆがんだボールペンの文字で
僕の住所と名前が書かれていました
僕はかなり気味の悪いものを感じました
一体誰がこんなものをよこしたのでしょう?
郵便屋もよくこれが僕宛であると判別できたものです
僕は封筒を裏返してみました



43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:50:29.37 ID:mmUZbAdx0

そこには差出人の名前が、同じくミミズがのたうつような文字で記されていました
僕はそれを20秒ほど眺め、思わずあっと声を上げてしまいました
そこに書かれていたのは、「彼女」の名前であったのです



44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:50:44.39 ID:mmUZbAdx0

彼女の身に、何かよからぬことがあったらしい
それはすぐにわかりました
問題のその文字は、どう考えても常人が書くものではありません
脳や精神に異常があるか、あるいは半ば昏睡に陥りかけている人間が
したためているかのごときそれです
僕は慌てて封を開きました



45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:51:02.55 ID:mmUZbAdx0

封筒の中には二枚の便箋と、一枚のワープロ紙が入れられていました
どちらにも手書きで文字が記されています
やはり、ひどくゆがんだ、きわめて歪な字体です
僕は彼女が書いた文字を、以前一度目にしたことがあります
字は人格を反映するというのは、ある程度本当のことなのでしょう
その際目にしたそれは、まさに彼女のまじめでおとなしい人となりを
そのまま焼き移したかのような、静かで上品で、それでいて芯の通った綺麗な文字でした



46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:51:25.97 ID:mmUZbAdx0

それがいまや、悪い言い方をすると痴呆症患者の記したかのような字体に成り果ててしまっている
ではありませんか
ということは、これを書いた彼女の精神も、そのようなレベルにまで壊れてしまっているというのでしょうか?
まだ、あの最初で最後のデートを行ってから、二週間程度しか経過していないにもかかわらずです



47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:51:47.89 ID:mmUZbAdx0

続いて僕は、その文面に目を走らせました
そこでまた僕は、字体に引き続き
内容以前の異常性に気がつきました

このような黒いひし形のマークが、文中には大量に出没していました
それは一つにつき一文字を塗りつぶすような格好で存在していて
彼女が記した文章の全体像をわかりにくくしています



48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:52:09.50 ID:mmUZbAdx0

一体なぜそのような加工がなされたのか
僕にはまったく理解できません
そして肝心の中身なのですが
ひしゃげた文字を一つ一つ拾い読みしていった僕は
さらに頭を抱えてしまいました



49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:52:26.61 ID:mmUZbAdx0

このようなことになってしまい、本当にごめんなさい。
○○さん(僕の名)、これはあなたの◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私が◆◆◆◆◆◆ならなかった原因は、すべて◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆本当に罪深い人間なのです。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆人間を裏切り、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
人間も裏切りました。
◆◆◆◆◆◆◆◆それはもう追及なさらないでください。



50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:52:50.96 ID:mmUZbAdx0

勝手なことを言っているのは分かっております。ですが
これから◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆恐ろしく感じられてしまうのです。この期に及んでそんな◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆あなたは私を◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
惨め◆◆◆◆◆笑い◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆そう思われるのならば、◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆できません。
ただ、◆◆◆◆◆◆◆◆させて下さい。



51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:53:09.18 ID:q9apTUCG0

中学二年生かよ



52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:53:26.08 ID:mmUZbAdx0

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆あなたにとっても不快な結果となると思うのです。
また加えて、最後の責任を果たすため、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
裏切り行為についてだけは◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
正直申し上げまして、私は◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
理由は、あなたが◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆持っていたこと、そしてなにより、◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆でいたためです。



53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:53:42.88 ID:mmUZbAdx0

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
だから、私は、おかしな話ですけれども、あなたもまた◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして今度は◆◆◆◆◆◆◆◆あげなくてはならないのだと、身勝手きわまる◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな白昼夢◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆、あのあなたとの最初で最期のデートでした。
あの日、私は途中からふさぎ込んでしまい、あなたとしても大変不愉快に感じられたかと思われます。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:54:03.47 ID:mmUZbAdx0

きっかけは◆◆◆でした。あなたは私が必死に◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆覚えていらっしゃい
ますでしょうか?実はあれは私◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆拒否し、次の瞬間には◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆あなたではなく、私のほうでした。
私は、納得いきませんでした。



55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:54:20.79 ID:mmUZbAdx0

◆◆◆◆◆◆◆私がしきりと◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆あなたは覚えておりますでしょうか?
あの時、私は、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆違いないと思い込もうとしていたのです。願っていたといっても
過言ではありません。あの時私は、少なからず、あなたに◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ですが、私のそんな邪欲も、あなたが◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:54:46.64 ID:mmUZbAdx0

あなたは、そこまで熱心な◆◆◆◆◆ではない◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その時になってようやく気がついたのです。
同時に、私は失った◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
自分自身に絶望しました。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆私は本当に、駄目になって
しまったのです。



57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:55:03.97 ID:Nq3DugvH0

ここで、少々時を遡ります
あれが私が風(ウィンド)という異名で呼ばれていた頃の話です
同じ頃、彼女もまた笑う牝豹(ラフイングパンサー)なる異名で呼ばれ、凄腕の傭兵として恐れられていました



59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:55:17.59 ID:mmUZbAdx0

 詳しくは申し上げられませんが、その◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆原因なのです。
もはや、けじめをつけねばなりません。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
最期につけたさせてください。私は、あなたが◆◆◆◆◆何をいまさらとおっしゃられるかも知れません。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆自分でもそれが間違いないと、確信を抱けるようになりました。



60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:55:46.31 ID:mmUZbAdx0

私があなたに告白し、付き合おうとしたのは、決して私が◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆私はあなたと会い、話していく中で、確かに◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あなたへの手紙は、これでしめくらせていただきたいと思います。
◆◆◆◆◆◆◆◆思いますが、もう適切な言葉すら思い当たりません。どうか◆◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
心より願っております。



61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:56:33.00 ID:mmUZbAdx0

このような文章が、今にも消えてなくなりそうな筆圧で
便箋2枚にわたってつづられていました
もう一枚のワープロ紙に書かれていた内容も、実に得体の知れないものでした



62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 08:57:03.85 ID:mmUZbAdx0


Iwamura1 Longoria3 Nomo11 Boggs12 Crawford13



67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:04:10.00 ID:mmUZbAdx0

Nomo=野茂、そしてIwamura=岩村の名があることを見ると
これは野球選手の苗字を並べたものなのでしょうか?
そういえば、Crawford、この名前にも僕は聞き覚えがあります
確か、アメリカ大リーグでも屈指の俊足打者で
何度か盗塁王のタイトルを獲得していたはずです
野茂と岩村にはメジャーでのプレー経験がありますから
ということはこれは野球選手というより、メジャーリーガーの名を並べたもの
ということになるのでしょうか?



69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:05:22.34 ID:mmUZbAdx0

そして、こちらのほうは手書きではありませんでした
ワードで製作した文字列をプリントアウトしたものです
ただ◆の部分だけは便箋のほうと同様に、ボールペンで描かれていました
彼女はなぜこのような差別化をしたのでしょう?
アルファベットや数字が、文字の乱れによって正確に読み取られないことを恐れたのでしょうか?



70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:06:26.37 ID:mmUZbAdx0

いえ、それ以前に、すべてにおいていえることなのですが
そもそもこれらは一体何なのでしょう?
考えても考えても意味するところが全く分かりません
ただ何やら不穏な雰囲気が伝わってくるばかりです
僕はその3枚の紙を手にしたまま、呆然と天井を見上げていることしかできませんでした。



71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:07:24.76 ID:mmUZbAdx0

その後、僕は特に行動を起こせませんでした
ただでさえ、恐らくは僕自身が元凶となって疎遠となってしまっている上
あのような手紙を送りつけられてしまっているのです
僕はもはや、どのような形で彼女に接触したものか、皆目見当が付かなくなってしまっていたのです
この辺りが、僕が人に見捨てられれ続ける所以なのでしょう



73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:08:21.26 ID:mmUZbAdx0

人と人との関係を大事に考えられる人間なら、ここで思い切って電話をするなり
いっそ彼女の家を尋ねてみるなり(彼女の住所は教えられていました)
何か成すべき事はあったはずです
ただ、結局僕は何もできぬまま
悪戯に時の経過に身を任せ
その中で自分の心に蓋をするように
彼女に関する何らかの事柄を
一つずつ、少しずつ、忘れていきました



75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:09:16.09 ID:mmUZbAdx0

それから、1ヶ月ほどたったある日のことです
スケジュールに空きがあったため、僕は午前中を自宅でくつろいでいました
そんな中、誰かがドアをノックしてきたのです
僕は一人暮らしで、友達と呼べる存在も持ちませんでしたから
たずねてくる存在といえば押し売りセールスくらいに限られます
僕は居留守を使おうと思い、見ていたテレビのボリュームを下げました



76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:09:56.76 ID:mmUZbAdx0

『○○さん』
ドアの向こうの何者かは言いました
低い男の声です
そいつは、合わせてドアを少し雑に叩いてきました
どうも、セールスにしては乱暴であるように感じられます
『○○さん、警察です』



77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:11:09.11 ID:mmUZbAdx0

警察
そいつは確かにそう言いました
僕は胸が重くなるのを感じました
足音がせぬよう、自宅にいながらこそこそとドアにまでにじり寄ると
のぞき窓に目を当て、外の様子を確認します
そこには私服姿の男が二人立っていました



78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:12:10.22 ID:mmUZbAdx0

『○○さん』
そのうちの背が高いほうが、再び戸を叩こうとするそぶりを見せました
僕は迷いました
警察を名乗る詐欺の可能性もあります
ただ、あれが本当の警官なら、この場をやり過ごしても結局なんらかの形で
接触は仕掛けてくるでしょう
僕は一人暮らしをしているのですが、実家のほうへ連絡がいくかもしれません
それは大変剣呑なことでした



79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:12:52.25 ID:mmUZbAdx0

もっとも、警察に攻められるほどの
なにか明確な悪事に手を染めた記憶はないのですが・・・。
僕はあきらめて戸を開きました
『あ、○○さん?』
背が高いほうが、少し砕けた様子で聞いてきました
「はあ・・・」
「おはようございます。すいませんね朝早くから」



80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:13:25.66 ID:mmUZbAdx0

彼はそういいつつ、警察手帳を僕に示してきました
もっともそんなもの見せられても、部外者の僕にはそれがほんものかどうかも
分からないのですが
「ちょっとお聞きしたいことがありまして」
「はあ・・・・」
「できればちょっと、署のほうまでご同行願えますか?」
「は?」
僕はあっけにとられてその警官のほうを見ました



81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:14:10.97 ID:mmUZbAdx0

「あの、僕何かしましたでしょうか?」
「いえいえ、○○さんご自身に特に問題があるわけではありません
ただどうしても詳しく聞いておきたいことがあるので。それをこちらのほうで済ませるわけにも
ちょっといかないものですから」
「はあ・・・どのような話でしょうか?」
「それもここでは少し・・・署のほうでお伺いしたいのですが」
「はあ・・・・」
「今、お時間よろしいでしょうか?」
「はあ・・・・」



82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:14:48.25 ID:mmUZbAdx0

僕は仕方がなく
その警官たちについていきました
表に出て少し歩くと、なるほど確かにパトカーが止められています
彼らが警官であるというのは、どうやら本当のようです
それに乗せられ、僕は30分ほど移動しました



83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:15:36.34 ID:mmUZbAdx0

途中、恐らくマニュアルかなにかで義務付けられているのかもしれませんが
二人の警官はかわるがわる、たわいもない世間話を振ってきました
しかし生まれて初めてパトカーなどに乗せられ
わけも分からず警察署へ連れて行かれる最中の僕としては
そのようなものにあまり応じる気にもなれませんでした



84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:16:48.36 ID:mmUZbAdx0

警察署へつくと
僕は上階の奥の部屋に通されました
暗く狭い無機質な部屋にテーブルが一つだけ置かれており
そこに座って待っているよう言われたのですが
その時点ですでに囚人になったかのような心持でした
罪に問われるような悪事を働いたことはありませんし
その件に関しては先ほどの警官も否定はしています
しかし僕はこれからどうされてしまうのか、不安でなりませんでした



85:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:17:29.72 ID:mmUZbAdx0

やがて、先ほどとは別の、年配の警察官が入ってきました
警官は僕を見ると軽く一つお辞儀をしました
「○○さんですね?」
「はあ・・・」
「お忙しいなかすいません。私○○課の○○と申します」
「はあ・・・」
「今日お呼びしたのはですね・・・」
そう言いつつ警官は、僕の目の前に座りました



86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:18:07.47 ID:mmUZbAdx0

「実は、○○さん(彼女の名)についてなのですが」
「え?」
そこで僕は、予想もしなかった人物の名を耳にしました
「○○さん、あなたご存知ですね?」
「え・・・・はあ・・・・」
彼女がどうしたというのでしょうか?
「失礼ですが、あなたとしては、彼女とどのようなご関係だったのですか?」



87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:18:54.25 ID:mmUZbAdx0

「え?」
「彼女とはですね、どういう関係だったのですか?」
「ええと・・・・知り合いです」
僕はとっさに嘘・・・嘘のようなものをつきました
「彼女」とはいえませんでした



88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:19:57.41 ID:mmUZbAdx0

それは、単に恥ずかしかったこともあるのですが
何より「交際」していたわりにはほとんど会うこともなく
さらにあのような形で別れてしまった相手のことを
人前で「彼女」と言い切ることにためらいがあったためです



90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:21:05.95 ID:mmUZbAdx0

「『知り合い』?『知り合い』ですか?」
そこでその老年の警官は、うつむいてメモを取りつつ何やら鋭い眼光で僕を見上げてきました
僕をここへ呼んでいる以上、大体の事は把握しているのでしょう
『彼女』ではなく『知り合い』といってしまった事に、不信感を抱いているのでしょうか?
しかし、これはそこまで大それた嘘であるようにも思えません
追求されればそれはそれで、やんわりと彼女であることを認めればいいだろうと思いました



91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:21:56.43 ID:mmUZbAdx0

「『知り合い』・・・『知り合い』ねえ」
警官はまだぶつぶつ言っております
「いつごろからの知り合いですか?」
「え?ええとあれは、最初は、だいたい2~3ヶ月前くらいですかね?」
「2~3ヶ月前ね。どうやって知り合いになったのですか?」
「ええと、僕がちょっと表で本を読んでいたんですけど」
「はい」



93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:22:54.13 ID:mmUZbAdx0

「そこで急に彼女に声をかけられて、それで知り合う仲になったという形ですね」
「それ以前は一切接触はありませんでした?」
「はい」
警官はメモを続けていきます



94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:23:49.45 ID:mmUZbAdx0

「それで、その後はどうです?その後彼女とはどういう縁を持ったのですか?」
「ええと、週に何回か電話をしたりしまして」
「はい」
「それであと・・・一回だけ遊びに出かけましたね」
僕はこういう部分についてはうそをついても始まらないと思い、本当のことを言いました
「それはいつですか?」
「ええと、大体1月半くらい前の金曜日です」
「正確な日付わかります?」
「え?ええと・・・」



95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:24:25.99 ID:mmUZbAdx0

僕はそこで少し答えに窮しました
警官は逃しはしない、という眼光で僕を捕らえています
「何とか思い出せませんかね?」
「ええと・・・」
そこで僕はあることを思い出しました
「すいません、ちょっと携帯開いてもいいですかね?」
「どうぞ」
「すいません」



96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:25:04.96 ID:mmUZbAdx0

あの日、彼女との消化不良気味なデートを終えた僕は
精神的に打ちひしがれて帰宅した後
テレビで洋画を見ながら就寝しました
あれは確か金曜ロードショーで
やっていた映画は「」
だったはずです
その放送日時を調べれば、自動的にあのデートの日付も明らかになります



97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:25:47.12 ID:mmUZbAdx0

「あ、わかりました」
「ああ、分かりましたか」
「3月9日です」
「え?3月9日?」
「はい・・・」
「それは間違いありませんか?」
「ええ、間違いありませんけど」



98:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:26:34.53 ID:mmUZbAdx0

「3月9日ね・・・」
この日付に何か引っかかるものでもあるのか、警官はぶつぶつ言い続けています
「それで、その日はどこへいったんです?」
「ええと、映画館とか・・・」
「はい」
「遊園地とか・・・」
「それだとまるで、デートみたいですね」
警官は再び目を光らせました



99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:27:29.05 ID:mmUZbAdx0

「はあ、まあ、そんな形ではありますけど」
「彼女とは付き合っていたんですか?」
そこで警官は僕にとっては痛い質問をしてきました
「え・・ええと・・」
「どうなんです?」
「正直、よく分からないといいますか」
「分からない?」



100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:28:08.43 ID:mmUZbAdx0

「確かに、デートみたいなことは一度だけしましたし、それなりに親密であったとは思うんですけど
でも、それだけで、彼女といっていいほど深い仲であったのかどうかは、今となっては・・・」
僕は最初即座に彼女が「彼女」であると断言しなかったことに関する言い逃れを試みました
「それに、そのデートみたいなのが、彼女と会う最後の機会になってしまいまして」
「といいますと?」
「それ以後、彼女とは連絡が取れなくなってしまって」
「ははあ」



101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:28:47.04 ID:mmUZbAdx0

「それで、もうお互いに会うこともないまま、今日まで来てしまっているんです」
「でしょうな」
「は?」
警官はなぜか、分かっているというような物言いのしかたをしました
「しかしですね、彼女と連絡がとれたのは、本当にその日が最後でしたか?」
「え?」
「それ以降、一回でも彼女と電話などを取り合ったことはありませんでしたか?」



102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:29:41.11 ID:mmUZbAdx0

僕はああ、この警官は「アレ」のことを言っているのだなと察しました
あのデートの6日後にかかってきた、彼女からのあの最期の電話のことです
「一度だけ電話がありました」
「いつです?」
「あれは・・・3月15日だったと思います」
「3月15日ね」
警官はすべて見通しているという感じでうなづきました



104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:30:43.24 ID:mmUZbAdx0

「その時、彼女はあなたに何を言ったんですか?」
「え?」
「何を話しました?」
「ええと・・・」
僕は困りました。あの電話の主なる趣旨は、僕への離縁の突きつけだったのですから
これを言ってしまうと、やはり警官に最初に彼女を「知り合い」と言ってしまった
事実との間で矛盾が生じてきてしまうこととなります
僕はなんとかその部分だけはぼかそうと考えました



105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:31:31.36 ID:mmUZbAdx0

「『駄目だ』といっておりました」
「『駄目だ』?」
「はい。ひどく元気のない様子で『自分はもう駄目になった。駄目になってしまった』と」
「・・・・・・・」
警官は何か考えている様子で目をしばたかせていました



107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:32:24.10 ID:mmUZbAdx0

「それはどうも、平穏な話ではありませんね」
「はあ、僕もそう思いました」
「あなたは、なぜ彼女がそんなことを言ったのか分かりますか?」
「え・・・それはちょっと・・・」
僕は半分嘘で、半分本当のことを言いました
彼女があのようなことを言った直接的な理由が、デートの果てに僕へ愛想を尽かし
計1ヶ月間の恋愛関係をまったく無駄なものとしてしまったことにあるのだというのは分かっています



108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:33:27.44 ID:mmUZbAdx0

ただそれと同時に、だからといってなぜあそこまで思いつめた感じになっていた
のかについては、やはりどうにも分かりかねていたのです
「ここが大事なところなのですがね、彼女はなぜその時あなたに電話をして、しかもそんなことを言ってきたのか
何か心当たりはありませんかね?」
「いや・・・」
僕は苦しい思いで否定しました。
「そうですかね。何か分かるとありがたいのですがね?」
警官は疑い半分、失望半分といった目線で僕の顔を嘗め回しました



109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:34:15.87 ID:mmUZbAdx0

「あの」
僕はその雰囲気に耐え切れなくなったこともあり、今まで聞きたくてたまらなかった
ある問いを口にしました
「彼女、どうなってしまったんですか?」
「・・・・・」
「今日こういう風にここによばれて、こんな質問されて、彼女にあまりよくないことが起きたのは分かります」
「・・・・・」
「彼女に一体何があったんですか?」



110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:35:12.54 ID:mmUZbAdx0

「あなたは、何も知らないのですな?」
警官は聞きました
「はい、それ以来、彼女とはまったく話していないので・・・」
「もう一度聞きますが、あなたは彼女の『彼氏』というほど深い仲ではなかったのですね?」
「あ・・・はあ・・・まあ、そこまでは・・・・」
「では、まあ、いいでしょう」
警官は謎のようなことを言いました。
「彼女はね、今ちょっと行方不明になっているんですよ」
「は?」
僕は耳を疑いました



112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:35:50.94 ID:mmUZbAdx0

「行方不明ですか?」
「はい」
「それは一体どういうことです?」
「ある日突然家を出て、それから帰宅していないらしいんですな」
「それはいつです?」
「彼女が最期に自宅・・・彼女は実家住まいなんですけどね、その
自宅にいたと家族が証言しているのは、3月14日になるんですな」
「・・・・・・・」



113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:36:23.16 ID:mmUZbAdx0

3月14日
それは彼女が僕に電話をかけてきた、わずか1日前ではないですか
となると、あの電話は一体何だったのでしょうか?
「それでですね、家族のほうから警察のほうへも捜索願がだされまして」
「・・・・・・・」
「彼女の携帯の履歴を調べたところですね、それを使ってなされた最期の通話というのが、
その3月15日の、あなたの番号宛の電話ということになっているんですわ」



114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:37:03.10 ID:mmUZbAdx0

「え?それが最後なんですか?」
僕は目を丸くしました
「ええ。その直後に電話の電源も切られておりまして、それっきりです。だから以後どこへいったのか
探知することもできません」
「・・・・・」
「ただ、問題の電話がかけられた、発信源までは特定できているんですがね」
「・・・・・」
「いや、特定といいましても、最寄の電波塔が分かるだけなんで、そこまで正確な位置が把握できるわけでも
ないんですが」



116:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:37:43.06 ID:mmUZbAdx0

「それはどこですか?」
「山梨県の鳴沢村というところです」
「鳴沢村?」
聞いたこともない地名でした
一体彼女が山梨あたりに、何の用があって出かけていたのでしょう
「俗に言う、富士の樹海がある場所なんですがね」
「・・・・・・・」



117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:38:16.66 ID:mmUZbAdx0

僕は警官が一体何を言い出したのか理解することができませんでした
「富士の樹海」
彼は確かにそういいました
それが日本一の自殺の名所であることくらい、もちろん僕も知っています
そのような場所から、彼女が僕へと最後の電話をかけてきたというのです



118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:39:00.71 ID:mmUZbAdx0

「それからね、実際その樹海の、遊歩道のすぐ近くで、彼女の持ち物が見つかったんですな」
「・・・・・・」
「ちょっとしたリュックサックなんですがね、それがポツンとおかれていたそうなんですよ」
「・・・・・・」
「あの辺はほら、ああいう場所なんで、時々親切な人が巡回して、不審な人間がいたら
呼びかけて思いとどまらせたり、あるいは遺品の回収を行ったりしているんですがね」
「・・・・・・」
「その中で、そういう人の一人が、そのリュックサックを見つけたそうなんですわ」



119:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:39:47.63 ID:mmUZbAdx0

「それで・・・」
僕はたまらなくなって叫びました
「彼女は死んだのですか?」
警官は僕をぎょろりと睨みました
「まだ、そうとは決まっていません」
「・・・・・と、いいますと?」
「近辺を洗ったんですがね、遺体は見つからなかったんですよ」
「・・・・・・・」



120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:40:45.82 ID:mmUZbAdx0

「そのリュックの中身も調べたんですがね、1,2日分の食料と着替え
それから簡単な登山用具等も入っておりまして」
「・・・・・」
「彼女が遊歩道の散策などではなく、本格的にあの森に分け入る気であったのは
まず間違いないんですな」
「・・・・・」
「ただ、実際それで自殺したかとなると、少しおかしなところがありましてね
そういう荷物を放り出して、手ぶらで森の奥深くまで入って行ったかとなると
どうにも腑に落ちないんですな」



121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:41:31.57 ID:mmUZbAdx0

「・・・・・・・」
「荷物から離れて発見された仏さんもそれはいます。それでも、そんなに
距離は置いていないんですな。心情的にもそれはそうでしょう。自分の
人生の最後の時に所持していたものなら、これはやはり果てるその時まで
傍らにおいておきたいというのが人情ですからね。彼女の場合になると
中につまっていたものが、樹海に入り込む上で必要となる備品であった
だけに、これはなおさらのことです」
「・・・・・では、どういう?」



122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:42:27.61 ID:mmUZbAdx0

「時々いるんですがね、死を決意していざ自殺の名所に足を運んでも
急に怖くなったり、やはり生きていたくなったりして、いや、これはむしろ
人間としては正常な反応だとは思うんですがね、そういう心変わりをして
引き返す人、そういう人も少なくはないんですな」
「・・・・・・」
「それでそういう人にとっては、その際身につけていた自殺用の持ち物は、
その時になっては不要であるどころか、不吉きわまる品ですから、もういらないと
いうことで、破棄していってしまうことも珍しくはないんですわ」



123:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:43:11.99 ID:mmUZbAdx0

「では、彼女は生きて帰ったと?」
「可能性ですよ?可能性としてはあります」
「しかし、彼女は家には帰っていないんですよね」
「そこなんですがね」
警官は頷きました
「そうやって自殺を思いとどめた人間というのは
今ある生を、拾ったもの、新しい生を手に入れたものと考える事があるんですな」



124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:44:06.10 ID:mmUZbAdx0

「・・・・・」
「そして、元の生、これまでの人生ですがね、これは彼らにとっては忌むべきものです。
結果として一度は彼らを殺しかけた生なわけですから、気持ちのいいものではありませんよ。
なので、もう自分は死んだものとして、それまでの生はなかったものとして、今までの
社会との係累すべてをかなぐり捨てて、どこかへと立ち去ってしまう人、
これもまた少なくないんですよ」



127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:45:33.42 ID:mmUZbAdx0

「彼女もまたそうなったと?」
「可能性ですよ?」
警官は少し怒ったような声で言いました
「可能性としてはありますよ」
可能性・・・
つまり、やはり自殺してしまったという可能性についても、この警官は含みを
もたせているのです



129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:46:30.94 ID:mmUZbAdx0

「それでですね、そういうことがあったものですからね、あなたに詳しい話を聞きたかったんですよ」
「・・・・・・」
「なんせ、彼女が最後に、しかも樹海から連絡してきた相手が、あなただというのですからね」
「・・・・・・」
「あなたは本当に、彼女とそれほど深い仲ではなかったのですね?」
警官はさらに聞いてきました
「はあ・・・」
『深い仲ではない』というという部分には嘘はありません



130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:47:30.46 ID:mmUZbAdx0

しかし、まずいことになったなと、僕は悔やみました
こうなってしまってはもはや
『いえ、実は恋人でした』
などと切り出すことはできません。
そのようなことをすれば、恐らくこの警官は僕に対して何らかの
嫌疑をかけてくるでしょう



131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:48:13.54 ID:mmUZbAdx0

「それで彼女は、『もう駄目だ』といったのですね」
「・・・・・はあ」
警官は質問を変えました
「その時彼女は、元気がなかったのですね?」
「・・・・・はあ」
「そうですか」
警官は目を軽く瞑りました



132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:48:57.56 ID:mmUZbAdx0

「いえ、私もね、私としてももちろんね、彼女には生きていてもらいたいんですよ」
「はあ」
「だから、正直言うともっと別な言葉を期待していたんですがね」
「はあ」
「『もう駄目だ』と言ったんですか・・・」



133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:49:29.47 ID:mmUZbAdx0

僕は、ああ、これは警官の中で彼女は自殺したという結論が出掛かっているな、と察しました
「もう一つ聞きますが、それ以後は本当に彼女からの連絡はないのですね?」
警官は少し未練ありげに聞いてきました
「はあ・・・」
「手紙も来ませんでしたか?」



134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:50:15.30 ID:mmUZbAdx0

そこで僕はあっと思いました
手紙、手紙はありました
問題の文字のゆがんだ、ひどく奇怪な手紙です
「手紙などは来ませんでしたか?」
「・・・・・いえ」
僕はとっさに、今度は明確な嘘をつきました



135:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:50:59.39 ID:mmUZbAdx0

「そのようなものはもらっておりません」
「・・・・・・そうですか。いえ、その見つかったリュックサックの中に遺書めいた
書置きは見つかりませんでしたし、彼女の家族や知人らも、そろってそのようなものは
受け取っていないと答えたものですから、もしかしたらあなたであればと思ったのですが
違いましたか」



136:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:51:15.88 ID:D2yNcfcU0

そこでウソついたらダメだろw



137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:52:11.95 ID:mmUZbAdx0

警官は少し疑わしげな顔をしていましたが
それ以上追求する姿勢は見せませんでした
してみるに、向こうのほうにも確信はなかったようです
僕がここで嘘の上塗りをせざるを得なかったことについては理由があります
警察からこのような話を聞かされる中、僕の中ではあの手紙は
彼女が僕に当てた遺書ではないかという疑念が急速に膨らんできていたのです



138:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:53:05.74 ID:mmUZbAdx0

同時に、あの手紙の文面や文字の異常性を考えれば
そのようなものを警察に提示したが最後、向こうもまずそれを
「遺書」と判断するであろう事は目に見えていました
それはとても許しがたいことでした
おかしな話ですが、僕には警察が彼女を自殺したものと見なしたが最後
本当に彼女の死自体が確定してしまうような気がしてならなかったのです



139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:54:09.70 ID:mmUZbAdx0

警察の意識が過去の出来事を左右するわけがないのですが
とにかくその時の僕にはそう感じられたのです
これは目の前の警官が、『彼女は生きている可能性もある』と発言したことに
僕が内心大きな救いを見出していたことも関係があるのかもしれません
とにかく、そういった理由で、僕は再度重大な嘘をついてしまったのです
この嘘が原因で、その後僕は長く苦しめられることとなりました



140:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:55:24.83 ID:mmUZbAdx0

警察の聴取はそれで終わりました
僕はふらふらしながら帰宅しました
まさか、彼女がそんなことになってしまっていただなんて
何より最後にかかってきたあの電話が、今まさに自殺しかからんとする
まさにその場からなされてたものであったとは
泣きながら受話器の向こうで『もう駄目だ』と繰り返した彼女の声を思い返し
僕はぞっとしました



141:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:56:04.81 ID:mmUZbAdx0

その思いはすぐに、自責の念に変わりました
その電話から、僕は彼女の異常性を察することができませんでした
いや、おかしいなと気づいてはいたのですが、最終的にあくまで単なる離縁の
電話としか考えず、なすべきフォローをすることができていなかったのです
もしあの時、彼女の置かれた状況に気づくことができていれば
僕は彼女を思いとどまらせるべく、何らかの言動が取れていたかもしれないのです



142:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:56:52.06 ID:mmUZbAdx0

それにしても、なぜ彼女は自らの最後の電話を、この僕などによこしてきたのでしょう?
かけるべき相手は、ほかにいくらでもいたはずです
家族や旧知の親友
そのような存在を差し置いて、なぜ僕であったのでしょうか
確かにそれが「彼氏」であるなら、それはそれで不自然な現象にも思われません
それが本当に、「彼氏」であるのならばです



145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:58:17.06 ID:mmUZbAdx0

僕はそのような存在ではありませんでした
「彼氏」として失敗した、なりそこねでしかありません
彼女もそれが分かっていたから、あの電話で僕に別れ話を切り出してきたのです
その様な相手を、最後の電話の相手に選ぶでしょうか
僕であれば嫌です
最後の相手は、より親密なる間柄のあった人物にしたいです



147:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 09:59:26.17 ID:mmUZbAdx0

分からないことはほかにもあります
彼女がなぜ自殺しようとしなくてはならなかったかについてです
僕は一瞬、それも僕と彼女の恋愛関係の破綻が原因なのではないかという
非常に嫌な妄想を抱きました
しかし、そのような疑念を僕はすぐに振り捨てました
さすがにそれはないでしょう



149:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:00:14.22 ID:mmUZbAdx0

確かに僕のふがいなさ、人間としてのつまらなさが
彼女を大いに失望させた部分はあるかと思います
しかしながら、いくらなんでもそれで自殺はしないでしょう
それが自殺の原因になってしまうほど、そもそも僕と彼女とは深い仲ではなかったのです
その結末を不快に思いこそすれ、命を絶ってしまうほど打たれ弱い人間であるのなら
彼女はその歳になるまで生きていられないでしょう
原因は何か、ほかにあるはずです



151:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:01:02.28 ID:mmUZbAdx0

僕は、押入れの奥にしまいこんでいた
彼女からの手紙を引っ張り出してみました
目の付くところにおきたくもなく、かといって捨てることもできず保存してあった
ほこりをかぶったそれは、今となってはまったく違う印象を放っていました
僕は震える手で封筒ごとそれをつかみ、しばらくぼんやり見つめていました
一体彼女は何を考え、どのような気持ちで、これを僕に送ってよこしたのでしょう



152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:02:39.47 ID:mmUZbAdx0

そこで僕の視線は、封筒に貼られた切手の上の、消印の部分に向けられました
もらった段階では意識すらしませんでしたが、見慣れぬ局名がふられていました
僕はそれをネットで検索にかけてみました。なるほど、警察の言っていたとおり、青木が原樹海の
すぐ近くの郵便局です。彼女は富士の樹海へ赴き、僕の元へ電話をかけてきただけでなく
当地のポストにでもこの封筒を投函したのでしょう



153:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:02:53.98 ID:D2yNcfcU0

な、謎がとけた!!
ネタバレしてもいい?>>1



154:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:03:11.01 ID:mmUZbAdx0

そこで僕はさらに別なことに気が付きました
消印の日付です
3月18日とあります
彼女があの電話をかけてきた、実に3日後です
僕はこのタイムラグについて考えてみました



156:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:04:05.80 ID:mmUZbAdx0

彼女から電話があったのは、正確には3月15日の午後11時
もしあの電話をかけた後にポストに向かったところで
その日付の消印をもらえる事はないでしょう
では、翌日の場合はどうでしょうか?



157:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:05:16.93 ID:mmUZbAdx0

基本的には、ポストの中身は毎日郵便局の職員によって回収されているはずです
なので、彼女があの封筒をどこのポストに投函したかはわかりませんが
それが郵便局員のその日の巡回時刻以前であれば
あの封筒は収集局へとまわされ、3月16日の消印はもらえることとなります



160:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:06:07.93 ID:mmUZbAdx0

逆に、仮に投函されたのが3月16日であったとしても、この巡回時刻
に間に合わなければ、与えられる消印は、3月17日以降のものとなってしまうでしょう
しかるに、封筒の消印は、3月18日となっているのです
ということは、あの封筒はもっとも早くても3月17日の夕刻
場合によっては3月18日の日中にポストへ入れられたこととなるではありませんか



164:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:08:15.87 ID:D2yNcfcU0

>>160
さすがワトソン、そのとおりだよ。だがその推理には重大な欠陥があるのだよ!
すなわち、彼女が第三者に投函を任せた可能性を無視している!!そいつこそ真犯人なのだぁぁぁぁ!



161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:07:02.79 ID:mmUZbAdx0

彼女は、あの直後に死んだわけではなかった・・・
僕は息を呑みました
僕は正直なところ、彼女はきっとあの電話のすぐ後に「コト」に及んだものと
思い込んでいたのです



163:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:07:34.14 ID:mmUZbAdx0

理由はいくつかあります
あの電話から察せられた彼女の精神状態が、到底尋常なるものでなかったこと
その電話からは、今になって思い返せば樹林の中にいるかのような音声が伝わって
きており、その時点ですでに彼女が樹海の奥へ足を踏み入れていたことが推察されたこと
さらには警察が言っていた、僕との電話の直後に彼女の携帯の電源が切られたという事実です



165:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:08:39.48 ID:mmUZbAdx0

これらのことをつなぎ合わせると、考えたくもないことですが
あの電話を終えた後に、彼女は帰らぬ人になった・・・そういう線が妥当であると思われました
無論、そんな可能性を望んでいるわけではありません
むしろ、そうであってほしくないと、僕は強く願っていました
それだけに、それを真っ向から打ち砕く先の状況証拠が
僕の中で忌々しい妄想をより強固なものへと作り変えていっていたのです



167:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:09:52.86 ID:mmUZbAdx0

しかし、あの消印
あの消印が提供する日付の情報は
そのような負の可能性を再度ひっくり返す効力を持ちえていました
あんな時刻に森の中からあのような電話をかけてきて、携帯の電源も切って
それでも少なくともそれから2日後の夕刻まで彼女が生存していたということは
どう考えてもおかしいではありませんか



170:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:11:56.91 ID:mmUZbAdx0

彼女が本当に自殺を考えていたのならば
やはりあの電話の後に命を絶つ気であったのは間違いないのではないかと思います
にもかかわらず、彼女はその2,3日後に僕宛の手紙をポストへ入れています
その2,3日の間、彼女はどういう理由があってか、「待機」をしていたというのでしょうか?
そしてポストへの投函を済ませた後、再び森へと向かったとでも言うのでしょうか



172:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:13:12.00 ID:mmUZbAdx0

僕には、人がそのような行動をとるのは不自然であるように思えました
死というのは怖いものです
どれだけ生に絶望し、死んだほうがましだと思っていたところで
死に際して与えられるであろう苦痛や、死んだ後人の魂はどうなってしまうのか
などといった疑問を思い浮かべれば、やはりそれは極めて恐ろしいものに感じられるのではないでしょうか



175:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:14:00.43 ID:mmUZbAdx0

それがあるからこそ、死にたいと思っている人間は決して少なくないでしょうが
多くはその願いを実行に移す前に思いとどまるのです
だから僕は、実際に自殺してしまう人間というのは、その最後の安全装置が効かなくなってしまうほど
精神的に追い詰められ、恐怖心が麻痺してしまった
本当に苦しい状況にある人なのだと考えます
しかし、そうであったところで、自分を殺す最後の一手を打つ際には
なお莫大な精神エネルギーを要すると思うのです



176:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:15:18.23 ID:mmUZbAdx0

そんな緊張状態を、人間は果たして2,3日も保つことができるのでしょうか?
僕の知る限り、彼女はそこまで強い人間には見えませんでした
それに、そもそも保つ意味があるのでしょうか?
それなりの覚悟を決め森へ入り、そこから引き返してきて2,3日待機し
郵便物を出した後再び森へ入る
一体こんな行動に、どんな意味があるというのでしょう



178:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:16:05.08 ID:mmUZbAdx0

彼女は自殺しようとしているのです
自殺しようとしている人間にとっては、この世でおきる大半の出来事は
もはやどうでもいいものでしょう
あの日、あの場所でどのような不都合が起ころうが
彼女の自殺の刻に不自然な延滞を与えるだけの効力を有しえるとは思えません



179:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:16:47.32 ID:mmUZbAdx0

だとするのならば
僕は必死で考えていました
別な可能性が考えられるのではないでしょうか
彼女は、あの警察官が言っていたように、本当に自殺を思いとどまったのではないかと
思ったのです



180:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:17:26.40 ID:mmUZbAdx0

こう考えると、辻褄はあってきます
すなわち、彼女はあの日、夜の樹海に入り込み、僕へ最後の電話をかけるも
その直後、死ぬのが怖くなってしまったのではないでしょうか?
それで、そのまま「自殺用具」の入ったリュックを投げ捨て
いったん人里に戻り、2,3日ほど自分なりに考えをまとめていたのでは



181:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:18:12.74 ID:mmUZbAdx0

そして、その過程で一つの区切りとして僕への手紙をよこし
何処かへ立ち去ったのではないでしょうか?
何処かへといっても、黄泉の世界へではないでしょう
あのような薄気味の悪い森ではなく、人が暮らすべき場所へと、再び
舞い戻っていったのではないでしょうか?



184:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:20:48.29 ID:mmUZbAdx0

といっても、彼女はそれまで暮らしていた実家には帰ってはいません
ですが、この問題にも警察の想定を借りれば説明可能です
彼女はそれまでの生に死を欲するほどのストレスを感じ
自殺しかけるも目的を達せられず、代わりに救われた命を拾ったものとみなして
これまでの生へ決別する意味で、関係者への連絡を一切絶ったのではないでしょうか?



186:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:24:15.42 ID:mmUZbAdx0

ここまでしか書き溜めてません
続きは後日書きます



188:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:25:14.56 ID:wj2DL6XM0

>>186

楽しみにしてる



190:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:27:08.13 ID:doqCboA40

面白い気になる



191:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:27:33.90 ID:mmUZbAdx0

万一続きが気になる方がいらっしゃれば
いつどこで書かれたかはここに貼ります
http://d.hatena.ne.jp/inny61/
VIPでパートスレを立てるといけないようなので
パートスレではない形で書きます



197:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 11:23:25.99 ID:DzG1IwcQ0

>>191
そのページチェックしとくよ
これカテゴリは怖い話なんだな。
ミステリーだと思ってた。



192:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 10:30:53.85 ID:JmDY12Wsi

気になるな



199:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/05/18(金) 11:27:48.30 ID:yBHgg6kQi

待ってる




4 件のコメント:

  1. 全部書いてからスレたてろやカス

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  2. びっぷらの一人語りでさえ最初のうちに「続けて」とか言われるのに
    ここまで一人で書き込み続けるとかもはや怖い

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